きみとぼく 第13話


「うーん、誰かが連れ出しちゃったのかなぁ」

ロイドは肩を落としながら言った。
ここはゼロの居住区だから防犯カメラの類は一切設置していない。
厳重なセキュリティを施しているから、関係者以外の侵入もまずありえない。だが、どう考えても誰かが連れ去っているのだ。でなければ、布団一式とかごが部屋から消えるはずがない。

「連れ出した・・・誘拐、されたということですよね。でも一体誰が・・・」

セシルが不安を滲ませ呟いた。

「・・・誘拐、ですか。この場合は盗まれた、ではないんですか?」

顔面蒼白で虚ろな目のゼロは、震えた声で言った。

「君、まだそんなこと言ってるの?現実逃避しても意味は無いよ。それとも、君の抱えていた矛盾が、本当に君を殺してしまったのかなぁ?」
「わたしを、殺した?」

なにをいっているんだ? こうして生きているじゃないか。

「正確には、君の心を、君の人格をといったほうがいいのかな?君はもう、自分の名前も言えないんじゃない?」
「私はゼロ、それ以外の何者でもない」
「君がゼロになったのは何時かな?その前は、ゼロじゃなかっただろ?」
「ゼロじゃ、無かった…?」

ゼロじゃない自分?
ゼロになる前の、自分?
ゼロ以外の自分?

「-------、本当にわからないの?ロイドさん、これは・・・」

こんな冗談を言う子ではない、ならばこれは。

「僕達が思っていた以上に重症だったようだね。大体、世界にとって都合の良い正義の味方なんて、普通の精神じゃなれないモノなんだよ。---------ならともかく、---------には無理だったってこと」

あの方は、いい意味でも悪い意味でも特別だったから。

「たまに会話が通じないから、おかしいとは思ってたんだよね」
「ですが、どうしてこんなことに」

セシルは泣きそうな顔でこちらを見つめていた。

「簡単な話だ。その男は理想を求めすぎた」

声にハッとなり振り返ると、そこにはよく知る女性、C.C.が立っていた。どうやらここで話し込んでいる間に来ていたらしい。彼女の後ろには迎え入れたサヨコがいた。

「理想を?」
「そう、この男が理想とする正義の味方だ。ゼロは完全な善ではない。巨悪を討つためには悪を行い、流れた血を無駄にしないために更なる血を流すのがゼロだ」
「違う、私はそんなことはしない!」
「そう、しないな、お前は。悪事をなさず、善行のみを行い、全ての人々の理想となる英雄。それがお前の望んだ英雄像だ。その虚構の英雄を演じるにはお前自信が、個の人格が邪魔になった。なぜならお前自身が多くの矛盾を孕んだ存在だったからだ。理想の英雄の人格としてはふさわしくない。何よりも、自分の命惜しさに多くの命を無慈悲にも消し去った罪人は、英雄であってはならない。だからこそ、不要だとお前は無意識下で判断した。理想の英雄を作り出すために、自分を犠牲にする道を選んだ。これは、お前らしい生き方とも言える」

誰かを守り死ぬことを望んでいた死にたがりだ。英雄を生み出すために死ねるなら本望だろう。肉体的な死ではないため、生きろのギアスは反応しない。

「だが、そうやって心を排除した結果がこのポンコツだ。英雄などからは程遠い、自我すら壊れかけた道化に成り果てた」
「私を道化だというのか」

英雄ゼロを、道化だと。
人々を救う資格が無いというのか。

「ああ、道化だよ。人の心を捨ててたモノに人の心が救えるのか?人としての生き方を忘れたモノに、人の思いが守れるのか?矜持を忘れたモノが、英雄になれるのか?契約を忘れたモノが、ゼロでいられるのか?今のお前に、あいつの願いを継ぐ資格はない」

魔女は感情の見えない眼差しを向け、冷たく言い放った。

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